今日は帰りに雨が降った。
置き傘はあったけど、傘はささなかった。
「本当に大丈夫?」って同僚に心配されたけど。
わたしは、傘が嫌い。だからコンビニのビニール傘しか持っていない。
高校二年生の頃、とってもおきにいりの傘を買った。
高校生のわたしには高価で、布部分も分厚いし、柄の部分も木でできていて、上等な傘だったと思う。今思えばブランド品に比べるべくもない程度の価格だったが。
でも、特別な傘だった。
傘をさしたときに、内側に星座の図が描いてあったから。
傘をさすとプラネタリウムの中にいるようで、雨が降るのが嬉しくなった。
もともと天然パーマのわたしに雨は鬼門で、雨が降るたびに憂鬱になっていたから、雨が大好きになったという事実がまた嬉しかった。自分の苦手気分をよい方向性に変えられるって言うのが嬉しかった。
その傘を学校に持ってきて、教室を出たところの廊下の傘立てに置いていた。
帰ろうと教室を出たら、その傘はなかった。
校内中の傘立てを探しまわって、教室の周りもぐるぐる探したけど、やっぱりなかった。
紛失届だったか、盗難届だったか、それを提出しに職員室に行った。
高校生の頃の自分は悲しい気持ちを表現する方法がよくわかってなくって、悲しくて悲しくてどうしようもなくって、それで表面的には怒ってた。
「もー、どこのどいつがこんなことするの!?」
「傘ぐらい自分で買えばいいのにーっ!」
わたしの傘はどこにあるんだろうって、他の誰かのそばにあることを思ったらいたたまれなかった。
「どんな顔して盗っていくんかなあ、もう!」
わたしの言葉に、担任の先生は静かに答えた。
「たぶん、普通の顔をして盗っていくんやで」
そういわれた途端、興奮がすっと冷めた。
言葉も心も通じない、理解し得ない人たちの存在を目の前につきつけられた気がした。
それ以来、ビニール傘以外の雨傘を買ったことがない。
折りたたみでしまっておける日傘を買ったことがあるだけ。
そして、できる限り傘はさしたくない。
傘を持つたびに、あの日の先生の言葉が胸に浮かぶから。